「VR リハビリ」は、リハビリテーションの効率化や患者のモチベーション向上に貢献する新たな技術として注目を集めています。 2020年代以降、国内の医療・福祉現場でも導入が進んでおり、特に脳卒中や高齢者向けの運動機能回復において活用事例が増加傾向にあります。

この記事では、VRリハビリの導入にあたって知っておくべきメリットとデメリット、医療従事者が注目すべきポイントについてご紹介していきます。

VRリハビリとは

近年、医療・福祉業界ではリハビリテーションにおける新しいアプローチのひとつとして、VR(仮想現実)技術の活用が進んでいます。とくに、患者のモチベーション向上や訓練内容の客観的な可視化といった点で注目を集めており、従来型の対面式訓練では得られにくかった多様なリハビリ体験を可能にしています。

VRリハビリとは、視覚・聴覚などの感覚をデジタル空間で再現し、実際に体を動かしながら、仮想環境内での動作訓練を行う手法です。たとえば、腕の可動域訓練をゲーム化したコンテンツや、日常生活に近い動作(着替えや食事)を模倣できる環境などを提供し、患者が「楽しみながら継続できるリハビリ」を実現しています。

リハビリ領域におけるVRの定義と種類

VRリハビリは、医療機関向けに開発された専用システムのほか、汎用VR機器を応用した低コストな導入方法も存在します。大きく分類すると、以下の2つに分けられます。

没入型VR(Immersive VR):
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、360度の仮想空間に入り込むタイプ。リハビリ患者が視界全体で訓練に集中できるというメリットがあります。
半没入型VR(Semi-Immersive VR):
モニター画面上に仮想環境を表示し、患者はリアルな世界と仮想空間を行き来しながらリハビリを行います。現場スタッフがリアルタイムで指導しやすいという特長があります。

いずれの方式も、センサーやモーションキャプチャを活用することで、動作の精密な記録や改善点の可視化が可能です。

なぜ今、医療・福祉業界でVRが注目されているのか

VRリハビリが注目される背景には、複数の社会的要因が存在します。

まず、高齢化社会の進行により、脳卒中や認知症、整形外科的疾患を抱える患者が増加しており、リハビリのニーズが年々拡大しているという現実があります。それに伴い、効率的かつ患者中心の訓練法が求められるようになりました。

さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、対面接触を極力避ける形の遠隔医療が拡大し、非接触型リハビリへの注目が一気に高まりました。この流れの中で、VRを活用したリモート対応型リハビリシステムが登場し、医療機関や介護施設での導入事例が増加傾向にあります。

たとえば、VRリハビリ支援を行う企業「mediVR」が提供する「mediVRカグラ」では、視覚・認知・運動の多面的訓練が可能なコンテンツを開発しており、実際の医療機関でも活用が進んでいます。

VRリハビリは、今後の高齢社会における人材不足への対応策としても期待されており、「訓練の自動化・デジタル化」という文脈で、今後さらに発展していくと考えられます。

VRリハビリのメリット 従来のリハビリとの違い

VRを活用したリハビリテーションは、従来のリハビリ手法では得にくかった心理的・技術的なメリットを提供できる点が特長です。特に、患者のやる気の維持と遠隔支援の実現という2つの観点から注目されています。

患者のモチベーションと自主性の向上

従来のリハビリでは、反復的な運動や一定の動作訓練が続きやすく、患者にとっては「単調でつまらない」という心理的負担が生じやすいという課題がありました。特に、高齢患者や長期リハビリが必要なケースでは、訓練の継続が困難になることも少なくありません。

一方、VRリハビリでは、ゲーム感覚で進められる訓練プログラムや、視覚・音声などの刺激によって「楽しさ」や「達成感」を得やすくなっており、患者の意欲を高める効果が確認されています。たとえば、mediVRが提供するリハビリシステム「mediVRカグラ」では、認知機能と運動機能を同時に刺激するコンテンツ設計により、自発的な参加を促す環境が整備されています

また、訓練成果がスコア化・可視化されることで、患者自身が進捗状況を理解できる点も、自己効力感の向上につながっています。

遠隔リハビリ・継続支援が可能になる仕組み

もう一つの大きな利点は、地理的制約を受けにくい遠隔リハビリの実現です。従来のリハビリは、患者が医療機関に通院する必要があり、交通手段の確保や身体的負担、感染症リスクといった課題がありました。

VRリハビリでは、一部のシステムが在宅でも使用可能であり、インターネット接続を通じて医療従事者がリアルタイムでモニタリング・指導を行うことも可能です。この仕組みにより、特に慢性期の患者や通院が困難な高齢者に対する継続的かつ安全なリハビリ支援が現実のものとなっています。

また、VRシステムにはセンサーやトラッキング機能が搭載されており、姿勢や動作の精度、反応速度などを記録・分析できます。これにより、現場の医師や理学療法士が訓練内容の改善提案や個別最適化を行いやすくなっています。

VRリハビリのデメリット 課題と制限

VRリハビリには多くのメリットがある一方で、医療機関における導入・運用の現場では、いくつかの実務的なハードルや安全面での課題も指摘されています。導入を検討するにあたっては、これらの側面を事前に理解しておくことが重要です。

コスト・導入負担の問題点

まず大きな課題として挙げられるのが、初期導入コストと運用負担の大きさです。VR機器一式の購入費用に加え、モーションセンサーや専用ソフトウェア、PC・ネットワーク環境の整備など、多くの設備投資が必要となります。

特に中小規模の病院や介護施設では、設備投資にかかる費用対効果の判断が難しく、費用対効果に慎重な姿勢が求められる傾向があります。加えて、スタッフへの研修やサポート体制の整備も欠かせないため、導入直後は運用負荷が高まることが予想されます。
また、VRシステムは日々進化しており、ハードウェアやソフトウェアの更新頻度も比較的高い点が注意点です。保守運用に関する社内体制や、外部ベンダーとの連携体制の構築も、長期的な視点で見たときの導入のハードルとなっています。

こうした課題については、実際の臨床現場からも複数の報告があり、日本リハビリテーション医学会誌でも、「汎用的な機器の適応性と専門スタッフによる適切な運用」が成功の鍵であると述べられています(出典:日本リハビリテーション医学会誌)。

現場における運用・安全性の懸念

もうひとつの懸念点は、VR機器を用いた訓練における安全性の確保です。VRコンテンツに集中しすぎることで、バランスを崩したり、転倒してしまうリスクがあるほか、高齢者や神経疾患を抱える患者ではめまいや吐き気(VR酔い)といった副作用の報告もあります。

また、VRリハビリでは仮想環境内での操作や動作が基本となるため、現実世界での空間把握能力が一時的に低下する可能性も考慮しなければなりません。これにより、認知症患者や重度の運動障害を持つ利用者では、安全な利用条件を事前に見極める必要があります。

「安全に配慮した運用プロトコルの整備」が今後の普及における重要なポイントとされています(出典:日本リハビリテーション医学会誌)。

まとめ

VRリハビリは、従来の訓練法に比べて患者のモチベーション向上や遠隔支援の実現といった多くのメリットをもたらします。一方で、コスト面や安全性、運用体制など課題も存在しており、導入には十分な検討が必要です。さらに今後は、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)との連携によって、より高度で個別化されたリハビリの提供が可能になると期待されています。医療現場では、技術革新の動向を把握しつつ、自院の体制や対象患者に合った最適な導入手法を検討していくことが求められます。