名古屋市立大学は、医学部の再編の一環で、2025年4月に、旧称:名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院を新たに医学部附属病院に加え、「名古屋市立大学医学部附属リハビリテーション病院」として再スタートさせました。

新たに医学部附属病院となった同病院では、大学病院としての高度なリハビリテーション医療を提供しつつ、「医療福祉センター」を併設し、医療と福祉の連携拠点となることを目指しています。

今回は、同病院で作業療法士を務めながら、書籍『作業で紡ぐ上肢機能アプローチ』『臨床5年目までに知っておきたい予後予測の考えかた』等を分担執筆した庵本 直矢先生に、「LIFESCAPES BMI」利用の現状について、話を伺いました。

名古屋市立大学医学部附属リハビリテーション病院における「LIFESCAPES BMI」の活用方法

貴院では、「LIFESCAPES BMI」をどのように活用されていますか?

庵本先生:当院には「一般病棟(地域一般)」と「回復期病棟」があり、主に「回復期病棟」で利用しています。

まず、当院のクライテリアとしては、指の伸展が難しい患者様で「LIFESCAPES BMI」が第一選択肢となります。
回復期病棟では、回復期に準じた訓練量を提供するので、介入量としては、上肢麻痺がある患者様であれば、単位配分が1時間から1時間20分が配分されることが多いです。
その中で、「LIFESCAPES BMI」は30~40分間提供することが多いです。

時期としては、意外と遅いと感じられるかもしれませんが、ADLがある程度見守り程度でできるようになってきた時に、次の段階としてBMIという選択肢が出てきます。
この背景として注意・集中の課題があると考えています。

回復期のはじめにすぐ来院されて、身の回りのことが自立していない患者様は、注意・集中のレベルが落ちている方が多くいらっしゃいます。
そこが土台として整っていないと、せっかく有効性があるはずの「LIFESCAPES BMI」の効果が、あまり発揮できないと考えています。

そうすると、時期としては、どのくらいから介入をスタートするのが良さそうですか?

庵本先生:当院の場合、回復期病棟に転院してくる方は、発症後2週から1か月くらいのことが多く、そこから1ヵ月くらいADLの経過を見て、カンファレンス等にて介入方針を変更することが多いです。
たとえば、ご病気されてから1ヵ月地点で当院に来院された患者様であれば、そのまた1ヵ月後にカンファレンスをするので、ご病気されてから2ヵ月くらいですね。

そこで、「そろそろ注意・集中の問題も少し減ってきて、ADL動作もある程度できることが増えてきたので、手指のリハビリにもっと時間を割きましょう」という話になることが多いです。ただし、例外的に入院当初から比較的注意・集中の問題やADLの自立度が高い場合には、早期からのLIFESCAPES BMIの導入を検討します。

そこから、「LIFESCAPES BMI」は、どのくらいの期間、使用されていますか?

庵本先生:当院のルールでは、先進機器を導入した方については2週間ごとにFugl-Meyer Assessment(FMA)を取ることが決まっているので、「LIFESCAPES BMI」を開始してから2週間後に回復度合いを確認し、もし劇的に回復していれば、その時点で中断してしまいます。次のステップへ進むというイメージですね。

もし、回復が乏しければ、さらに2週間続けます。
2週間継続使用したのちに、回復が望めなければ、ダラダラと続けるものではないと考えているので、その時点で打ち切っています。つまり、2~4週間の介入ですね。

さまざまな論文を見ても、実施量としては3-4週で区切っているものが多いので、それも踏まえて、4週くらいで区切りを付けています。
その後は、患者様も退院して家に帰らないといけないので、残された身体機能を活かしてどう生活するかという方向に思考をシフトしていくことが多いです。

また、生活期におけるボトックス治療(ボツリヌス療法)と「LIFESCAPES BMI」の併用介入の研究も進めています。

ボトックス治療を採用するような、痙縮が顕著な生活期の患者様では、発症から1~2ヵ月の回復期の患者様とはまったく異なる状況があります、末梢部の廃用が進んでしまい、筋の短縮や、関節の拘縮が生じている方もいらっしゃいます。

ボトックス治療で痙縮を軽減させるというエビデンスがあるのですが、患者様自身で動かす随意的な機能が向上するかといえば、そうではないということもボトックス治療の限界として報告されています。

「そこに何かないのか?」と考えた時に、現状では個人的にBMIが第一選択だと考えています。
当院では、ボトックス治療のために1週間、入院していただくのですが、1週間の中で6日間、毎日BMIを活用したリハビリを午前・午後それぞれ1時間弱くらいずつ実施しています。なので、かなりの時間を提供していますね。

評価は介入前後と、退院から1ヵ月後のフォローアップの際に実施しています。
途中で中間解析などはかけられないようなかたちで研究デザインを組んでいるので結果はまだわからないのですが、肌感覚としては、やはり回復期の方々とは異なり、回復の度合いが乏しいように感じています。

この原因は、本人様の回復の潜在能力がどの程度あるかと末梢部の廃用があることだと考えています。ボトックス治療を必要とする痙縮の度合いと生活期で手指伸展が困難であるということが回復の潜在能力が乏しい、すなわち皮質脊髄路の損傷程度が大きいこと表していると考えています。また、末梢部の廃用を加味したプロトコルを想定すると、訓練の仕方が、「短期間で集中」というスタイルでは合わないのと考えています。
頻度は少なくても長期間の取り組みで、たとえば、1週間で2~3回の介入を3か月くらいのペースの方が、末梢の廃用の改善も含めて可能性があるのではないかと考えています。

現状の当院の運用では、先ほどご説明したような枠組みの中で行っていますが、ゆくゆくは自費診療でのリハビリで活用したり、長期間で活用したりすることが良い方法なのではないかと考えています。

従来の運動イメージ療法と「LIFESCAPES BMI」との違い

従来の運動イメージ療法に対して、「LIFESCAPES BMI」のアプローチは、どのような点が異なるとお考えですか?

庵本先生:さまざまな研究において、運動イメージ療法が有効であることが、特に海外の論文を中心に示されてきました。

しかし、実際に日本の臨床の場でよく使われているかというと、正直なところ、あまり積極的に導入しているという話を聞きません。あくまで神経筋促通や関節可動域訓練などと併用して、補助的に活用しているレベルだと思います。
その一番のネックは、患者様本人がイメージできているかどうか、医療者にはわからない点でしょう。
もちろん、脳波を取るなど何かしらのバイオフィードバックを入れている論文もありますが、臨床の場ではそこまではできないのが実情です。

そこで患者様に、運動イメージ療法として、動きは出ないものの「手指が伸びていることをイメージしましょう」と伝え続けることを、論文で示されているように20分前後もできるかといえば、難しいというのが正直なところです。そこが臨床では一番の壁だと考えていました。

ただ、ある程度のエビデンスがあるため、実施した方が良いことは理解しています。
しかし、患者様の集中力も持たないし、療法士としても、患者様に「いま上手くできていますよ」といったフィードバックすらできないのです。
患者様を横で見ながら、とにかく「運動のイメージをしましょう」と言い続けるしかないわけです。
これでは、リハビリを提供する側も苦しい状態です。

そこへ「LIFESCAPES BMI」が出てきたのです。
「LIFESCAPES BMI」の何が良いかというと、患者様本人がイメージしていることを視覚化でき、(脳波として出てくる)電気刺激と電動装具によるフィードバックがある点もメリットです。
患者様本人がうまくイメージできた時に電気刺激が流れる、もしくは、ロボットが動くため、患者様は「自分は上手くイメージできていたんだ」と、モチベーションを高く保てると考えています。また、適切なフィードバックがあることにより、運動学習が促進される可能性も種々の論文で示されています。

個人的には、リハビリにおいて、モチベーションが非常に大事だと考えています。
訓練量を担保するために、長時間、集中して取り組むためにはフィードバックを受けながらモチベーションを保てることが重要だと考えています。
これらの点が従来の運動イメージ療法と圧倒的な違いだと捉えています。

BMIトレーニングのポイントと療法士の役割とは?

BMIトレーニングにおけるポイントと、療法士の役割について教えてください。

庵本先生:正直なところ、BMIを使いさえすれば良くなると考えている医療者もいます。
たとえば、そうなると極端な話ですが、脳波のペーストを貼れて、セッティングさえできれば、看護助手や学生でも良いわけです。
しかし、そうなってしまうと療法士がリハビリをする意義がありません。

運動イメージ療法とBMIの違いとして、BMIの方が運動学習が進むと考えています。
専門用語で「閉ループ」と呼ばれるもので、簡単にいうと、脳からの伝達が何かしらの形で末梢部に対してフィードバックされるというループが回るというものです。
閉ループを回すためには、適切な量とタイミングでのフィードバックが重要になってきます。
また、適切な言葉がけも必要です。

そういった意味では、BMIを使いながら、今は画面を見せながらフィードバックしているけれど、良くなってきたから敢えて画面を見せずにフィードバックする、あるいは、後半はフィードバックの量を減らす、といった調整が必要になってきます。
このあたりをしっかりコントロールすることが作業療法士の役割だと考えています。
あとは、適用基準の選定ですね。
全ての患者様にBMIを使えば良いというものではないので、きちんとBMIの機構を患者様が理解した上でリハビリに臨める状態をつくることが大切になってきます。
患者様が、自身で何をしているかもわからないまま、ただBMIでリハビリをしても意味がないので、BMIのリハビリでは何が重要で、自分はどこに注意を向けなければいけないのかがわかるように説明することも大事だと考えています。

どういう因子が組み合わさると「LIFESCAPES BMI」でも回復が見込めないのかを把握したい

「LIFESCAPES BMI」を活用して介入する際に、「この患者様はレスポンダー」「この患者様はノンレスポンダー」といった判断について、どのようにお感じですか?

庵本先生:当院でBMIを活用する患者様たちは、論文上ではほぼノンレスポンダー(回復期の時期に手指伸展が出現していない)に当たります。
さらに、近位部の出力も乏しいとなると、参考値としてはFMAのト-タルスコアで66点中10点も獲得できていないくらいなのです。予後が相当悪いということです。これが、肌感覚としては一番、大きいです。

加えて、認知ですね。いざBMIを導入しても脳波の活性化率にムラがあるとか、とか、2セット実施したら疲れてしまうという場合も、ノンレスポンダーに該当しうる可能性があるでしょう。

また、当院では開始時に脳画像を撮っているのですが、BMIの開始前に脳画像を解析すると、皮質脊髄路の損傷の程度がわかるので、指の伸展が出ないことに加え、運動をつかさどっている神経路である皮質脊髄路の損傷が大きいと、回復が見込めない可能性が高いと判断をしています。

ただ、それで「やめる」という判断ではないです。
やはり、皆さんに回復の可能性の機会は提供したいので、提供はするのですが、これまで、損傷が大きい患者様では回復したケースがごくわずかでした。

回復する可能性はあるのですよね?

庵本先生:ええ。ですので、どういう因子が組み合わさって可能性がないのか、ということを深く知りたいですね。一つの因子のみではないはずなので。

逆に、「LIFESCAPES BMI」の効果が出そうな患者様の特徴は?

庵本先生:発症から2ヵ月時点で、痙縮が強くなっていないことは大きな要素だと感じています。
また、ある程度、歩行の自立度も上がってきていること。
さらに、身の回りのことも、ある程度、反復すればすぐにできるようになること。

この辺りの条件を満たす患者様は、認知も下肢も体幹機能もある程度整った上で、上肢の麻痺が重い場合、BMIによる回復の可能性を感じます。これは、皮質脊髄路以外の代償経路が残存していることが考えうるためだと思っています。
論文上でも、上肢の麻痺の回復に影響を与える因子として、下肢の麻痺も含まれると言われているので、下肢機能の影響は大きいと考えています。

慢性期の患者様に「LIFESCAPES BMI」を提供するためのスキームづくりを

「LIFESCAPES BMI」は、ほかの療法と併用して実施するのが良いですか?

庵本先生:例えば我々が行っているボトックス治療との併用や、論文でもBMI実施後のリハビリテーションの併用は不可欠と言われているので、BMI単体での実施よりも他の介入方法を併用した方がよいと考えています。

LIFESCAPES BMIが装着されている状態で他の療法を併用することは可能ですか?

庵本先生:現状のLIFESCAPES BMIの場合は脳波計(ヘッドセット)と電動装具+電気刺激装置を装着するので、基本的に実施中は他の介入方法との併用はできません。先行研究では、BMIに電気刺激やロボットを組み合わせることによる有効性が示されている(LIFESCAPES BMIはまさにその作りになっている)ので、他の介入方法をこれ以上組み合わせる必要はないかと思います。
ただ、ヘッドセットの装着に時間を要すので、ヘッドフォン型のBMIなどがあれば、非常にいいですね。

当社としても、その方向で開発を進めてまいります。

庵本先生:メタアナリシスでも電気刺激はBMIに併用した方が良いと言われているので、ヘッドホン型のBMIを作る際は、電気刺激を付けた方が良い気がしています。
電気刺激が付くと、有効性が上がると思います。
末梢部へのフィードバックが入るかどうかは、運動学習を行う上では必須だと思うので、ぜひ検討いただけると嬉しいです。

ほかに、「LIFESCAPES BMI」へ期待することはありますか?

庵本先生:慢性期の方に対するBMIの適応のスキームを整えて欲しいですね。
というのも、技術がどんどん発展していくことを考えると、これからご病気される患者様は、たとえば、BMIのような先進的な機器での訓練機会が得られと思います。
しかし、既に病気になられた方にはその機会を提供できていなかった状況かと思います。そのため、テクノロジーが発展した今、過去にご病気になられた方にも、その恩恵を受けられるチャンスが欲しいと思うのです。
ただ、それは日本の医療制度の枠組みの中では困難です。
そうなってくると、LIFESCAPESさんに、スキームを作っていただくことを期待します。

現状の医療の枠組みの中で可能性が一つあるとすれば、遠隔リハビリテーションでしょうか。
個人的には、そこを推し進めたいですね。ヘッドホン型のBMIを使って何症例かの患者様たちにご協力いただいて実現できればと考えています。

また、LIFESCAPESさんは今後、海外進出も視野に入れていらっしゃるかと思うので、そこにも期待しています。
日本にいても海外にいる患者様にリハビリを提供できるようになって「日本にBMIに詳しい人がいるから提供してもらおう」と言われるような時代が10~20年後くらいに来たら嬉しいですね。

ありがとうございました。

名古屋市立大学医学部附属リハビリテーション病院の各種取り組みについては下記からご確認ください。

名古屋市立大学医学部附属リハビリテーション病院HP
https://w3hosp.med.nagoya-cu.ac.jp/rehab/